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プラスは足し算、マイナスは掛け算で組織に効いてくる

組織の中では、プラスの個人よりマイナスの個人の方が、強い影響力を持つことが多い。なぜ会社は問題のある人を排除できず、まともな人から辞めていくのか、という話です。

「プラスとマイナス、どちらのパワーが強いか」。個人の話ではなく、組織の話として考えると、多くの場合、マイナスの個人の方が、プラスの個人よりも強い影響力を持つと思っています。

プラスは足し算、マイナスは掛け算

たとえば10人のチームに、めちゃくちゃ優秀で前向きで、周囲を助ける人が1人いるとします。もう1人は、能力以前に、愚痴る、否定する、責任転嫁する、人間関係を壊す人です。この2人を置いた場合、組織全体を動かす力が大きくなりやすいのは、後者の方です。

プラスの人は、自分が成果を出し、周囲を少しずつ引き上げます。一方、マイナスの人は、本人の生産性が下がるだけでなく、他人の時間を奪い、周囲の意欲を落とし、対立と不信まで生みます。マイナスは、他人を巻き込んで増幅するのです。しかも人間には、同程度でもポジティブな出来事よりネガティブな出来事を強く認識してしまう「ネガティビティ・バイアス」があります。「あの人がいるから会社に行くのが楽しい」を一人作るより、「あいつがおるから会社に行きたくない」を一人作る方が、ずっと簡単なのです。

数字で考えると、もっと分かりやすくなります。優秀な人が周囲を10%押し上げても、100が110になるだけです。ところが、悪い管理職のせいで5人が本来の80%しか力を出せなくなれば、本来500あった組織の力は400になります。たった一人のマイナスが、100を消しているわけです。

管理職が撒くマイナスは、桁が違う

個人の影響力は、強度×接触人数×接触頻度×立場、で決まると考えています。そう考えると、単に性格の悪い一社員より、マイナスを撒き散らす管理職の破壊力は、桁違いです。10人の部下を持つ管理職が、毎日「どうせ無理やろ」「そんなことやって意味ある?」「失敗したらお前の責任な」と流し続ければ、その人自身の生産性がゼロになる、という話では済みません。10人全員の出力そのものが下がります。だから組織では、スター社員を一人増やすより、強烈なマイナス要因を一つ取り除く方が、全体の改善が大きいこともあるのです。

なぜ会社は、問題のある人を排除できないのか

では、なぜ会社は明らかなマイナス人材をなかなか排除できないのか。最大の理由は、個人の成果は測れても、その人が周囲に与えている損失は測りにくいことだと思います。月100万円の粗利を作っているAさんは、数字だけ見れば優秀な社員です。ところが実際には、Aさんのせいで、Bさんの生産性が落ち、Cさんは一緒に仕事をするのを嫌がり、Dさんは毎週フォローに時間を取られ、若手は萎縮して提案しなくなり、誰かが辞めてしまう。それでも会計上、「Aによる組織損失、年間1,200万円」という勘定科目は存在しません。

さらに厄介なのが、仕事はできるけれど、周囲を壊す人です。営業成績トップだったり、特定のシステムを一人しか理解していなかったり。会社は「確かに問題はあるけど、あいつが抜けたら困るしな」となり、依存が深まって、さらに切れなくなります。しかも被害は、会議が10分長くなる、相談しづらくなる、意思決定が遅れる、といった形で、毎日ちょっとずつ分散して発生します。言ってみれば、組織のCPUを常時15%食っている、謎のプロセスのようなものです。サーバなら、topコマンドで見つけて即killするのに、人間になるとなぜか放置してしまうのが不思議です。

経営者や管理職の側にも、心理的なコストがあります。面談、配置転換、評価の根拠づくり、場合によっては労務問題。何より、自分が採用した人間を失敗だったと認めることになる場合もあります。そこにサンクコストも加わり、「10年働いてくれたから」「昔は頑張ってくれたから」と、「もうちょっと様子見よう」が半年、一年と伸びていきます。ただ、過去の功績と、現在の組織への影響は、別の問題です。

周囲が適応し、まともな人から辞めていく

一番怖いと思うのは、周囲が適応してしまうことです。「あの人には言わない方がいい」「あの人が怒るから、この案はやめておこう」。一見、組織が回っているように見えますが、実際には、全員が一人の問題人物を回避するためのプロトコルを、せっせと実装しているだけです。しかも、新しく入った人がそれを学習して、「この会社ではこうするんですよ」と言い出します。いや、それは会社のルールではなく、そいつ対策です。ところが何年も経つと、その区別がつかなくなります。

そして、問題人物本人は、案外辞めません。その環境に適応しているからです。「なんでこんな人を会社は放置しているのか」と思った、まともな人から先に見切りをつけていきます。プラス人材が辞め、マイナス人材が残り、組織の文化が悪化して、さらにプラス人材が辞める。これが、組織が腐っていく典型的なメカニズムだと思っています。「腐ったリンゴは、樽ごと腐らせる」ということわざは、実によくできています。

だから、人材は二つの軸で見る必要があります。本人がどれだけ成果を出しているか。そして、その人が周囲の成果を増やしているのか、減らしているのか。本人が+150でも、周囲を-300にしているなら、その人はエースではなく、-150の人材です。「誰が一番仕事をしているか」だけではなく、「誰と仕事をすると、周りの人間が強くなるか」。経営者として、この問いを忘れないようにしたいと思います。

ちなみに、ここまで書いて、ふと「自分が誰かのCPUを食っていないか」が気になってきました。topコマンドで確認できるなら、まず自分に打ってみたいところです。

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