「人を本気にさせるには、夢を見せるべきか、恐怖を与えるべきか」という話を、最近よく考えます。
会社によって、先にお金やポジションを渡しておいて、成果が出なければ降格・減給というパターンと、次のステップに進むための夢や希望を試練として示すパターンとに分かれるようです。そして、圧倒的に人を本気にさせるのは、前者だと言われています。
失うことへの恐怖は、得ることへの期待より強い
行動経済学には「損失回避性」という考え方があります。カーネマンとトベルスキーの研究が有名ですが、人は同じ大きさの利益より、損失をずっと重く受け止めるのだそうです。
すでに手にしているものを失うかもしれない、という状況の方が、まだ見ぬ夢を追いかけるより、人を強く動かしてしまう。身も蓋もない話ですが、経験的にも納得できるところがあります。
カーネマンとトベルスキーがこの考え方を体系化したものは「プロスペクト理論」と呼ばれ、行動経済学の中でも特に有名な理論のひとつです。マーケティングの世界でも、この理論はよく応用されています。「残りわずか」「今だけ〇〇円引き、明日から通常価格」といった言い回しは、得られる利益ではなく、失うかもしれないものを強調することで、背中を押す仕掛けです。人を動かす原理は、経営でも販促でも、案外同じところに行き着くのかもしれません。
それでも、恐怖だけでは続かない
とはいえ、恐怖だけで人を動かし続けるのは、長い目で見ると危ういと思っています。追い詰められた状態が続けば、判断は縮こまり、挑戦する余白もなくなっていきます。
「尻を叩かれるのが一番苦手」という人ほど、実際に叩かれると伸びる。そんな皮肉な話も、現場ではよく耳にします。
降格減給、上等
大事なのは、恐怖か夢かのどちらか一方ではなく、両方を正直に見せることなのかもしれません。「これを失うかもしれない」という緊張感と、「その先にこれがある」という希望を、両方とも隠さずに伝える。
そして自分自身については、正直、成果に応じて厳しく評価される側でいたいと思っています。守りに入った瞬間に一番怖いのは、降格や減給ではなく、自分が動かなくなることだからです。